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東京地方裁判所 平成7年(ワ)7369号 判決 1997年8月25日

原告

株式会社エスエルピー

右代表者代表取締役

廣田静潤

右訴訟代理人弁護士

萩谷雅和

金子正嗣

被告

更生会社日本コールドシステム株式会社管財人

今津喜雄

才口千晴

被告ら訴訟代理人弁護士

小林信明

北澤純一

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  東京地方裁判所平成六年(モ)第七二〇〇号否認請求の申立事件において平成七年三月一七日付けで同裁判所がした否認の請求を認容する決定を認可する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  東京地方裁判所平成六年(モ)第七二〇〇号否認請求の申立事件(基本事件・東京地方裁判所平成四年ミ第一号)において、同裁判所は、平成七年三月一七日付けで、本件被告らが申し立てた会社更生法八二条一項に基づく否認の請求を認容し次のとおり決定した(以下「原決定」という。)。(争いがない事実)

1  日本コールドシステム株式会社が株式会社ダイトーに対して行った別紙手形目録記載の約束手形の裏書及びその原因行為である越智憲一の債務を保証ないし弁済する旨の平成三年一一月二九日付け契約は、これを否認する。

2  日本コールドシステム株式会社は株式会社ダイトー及び株式会社エスエルピー(本件原告)に対し、右手形に基づく遡求義務がないことを確認する。

二  原告は、右決定の取消しを求めた。

第二  事案の概要等

一  基本となる事実(争いがない事実)

1  日本コールドシステム(以下「更生会社」という。)は、平成四年一月二八日に更生手続開始の申立て(東京地方裁判所平成四年ミ第一号)を行い、同年八月六日に更生手続開始決定を受け、被告らが管財人に選任された。

2  株式会社ダイトーは、平成三年一一月二九日、更生会社の当時の代表取締役であった越智憲一に対し、更生会社の株式四二〇〇株を代金五億円で売却した。

3  越智は、平成三年一一月二九日ないし平成四年一月一四日に、前記売買代金の支払のために、株式会社大惣振出しの別紙手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)に更生会社を代表して裏書したうえで、株式会社ダイトーにこれを交付した。(以下「本件裏書」という。)。

4  株式会社ダイトーは、本件手形を原告に裏書譲渡した。

5  原告は、本件手形を所持し、更生会社に対する会社更生手続において、同手形にかかる遡求権五億〇六六六万五七四九円(利息を含む。)を更生債権として届け出ている。

6  被告らは、株式会社ダイトー及び原告を相手方として、本件裏書等に関して、前記第一1のとおり、否認の請求の申立てをし、同請求は原決定により認容された。

7  本訴は、原告が、原決定に対して提起した異議の訴えである。

二  争点

1  本件裏書が、会社更生法七八条一項四号の無償行為に該当するか。

2  原告が、本件手形の取得当時、株式会社ダイトーに右1の事実があることを知っていたか。

3  原告による本件手形の取得が、会社更生法九〇条一項二号の無償行為に該当するか。

(一) 原告の主張

原告は、平成三年一一月一日、更生会社の株式四二〇〇株を株式会社ダイトーに代金八億二〇〇〇万円で売却し、株式会社ダイトーは、右代金のうち五億円につき本件手形を原告に裏書譲渡した。

よって、原告は有償行為により本件手形を取得した。

(二) 被告らの認否、主張

裏書譲渡の事実を認めその余の事実を否認する。

本件手形の原告への裏書譲渡は無償行為である。

第三  当裁判所の判断

1  本件裏書が会社更生法七八条一項四号の無償行為に該当するか。

右該当性は、更生会社自身が本件裏書について対価を得たか否かによって決定されるべきところ、証人加賀将介の証言によれば、更生会社は何ら対価を得ていないと認めることができる。

本件裏書によって、当時の更生会社の代表者であった越智憲一が、更生会社の株式の買受けが可能となる等の利益を得たとしても、これを以て、同人とは別人格である更生会社の利益とみることはできない。

よって、更生会社による本件裏書は、会社更生法七八条一項四号の無償行為に該当すると認めることができる。

2  原告が、本件手形の取得当時、株式会社ダイトーに右1の事実があることを知っていたか。

(一)  甲一三号証の一、二、甲三九号証ないし四一号証、甲四三号証、乙一号証の一、乙二号証の一及び証人勝田一正、同横山忠弘の各証言によれば、本件裏書の経緯につき以下の事実を認定することができる。

(1) 原告は、セゾングループに属する株式会社西洋環境開発(以下「西洋環境開発」という。)の子会社(株式の一〇〇パーセントを同会社が所有。)であるところ、同会社の意向により、更生会社が、将来の発展性があり、かつ、食料品を扱う同グループ内の会社の業務の効率化にも寄与することができる会社であるとの評価のもとに、更生会社の経営権を取得することを決定し、平成二年一一月ないし一二月、更生会社の株式八四〇〇株のうち五二五〇株を越智憲一及び同人の会社である株式会社大惣から買い取った。その際、原告の資金繰り等の都合により、一旦は、西洋環境開発の子会社(株式の五〇パーセントを同会社が所有。)である株式会社ダイトーに買い取らせたうえで、同社から原告が買い受ける手順を取った。そして、原告の代表取締役の横山忠弘が同時に更生会社の代表取締役に就任し、その経営に参画した。

(2) その後、原告が調査した結果、更生会社の財務内容及び事業の発展性が期待にはずれて悪いと判断されたため、平成三年六月以降、原告は、更生会社の株式を処分することとし、一方、横山は同年五月、代表取締役を退任した。

しかし、四二〇〇株については売却ができなかったため、越智に買い戻しを要求した結果、平成三年一一月二九日ころ、原告の代表取締役の横山と、越智や仲介者とが、協議のうえ、右株式を越智が買い取ること、代金のうち五億円は株式会社大惣振出しの本件手形により支払うこと、越智が手形保証をし、更生会社も支払を保証する趣旨で裏書すること等を合意した。なお、越智は右当時、更生会社の代表取締役の地位にあった。

そして、代金額については、原告が西洋環境開発が一〇〇パーセントの株式を有する会社であり、損失が生じた場合に同会社の決算に不都合な影響を及ぼすため、原告に更生会社の株式の売却損が生じない価額である八億二〇〇〇万円以上とすることを原告側が要求したのに対して、越智が資金的に五億円までしか支払えない状態であったため、西洋環境開発の指示により、原告に損失が生じることを回避する便宜として、株式会社ダイトーを取引に介在させることとし、原告が八億二〇〇〇万円で株式会社ダイトーに売却し、そのうち五億円は本件手形により支払いを受けること、そして、同社が五億円で越智に売却する形式を取ることで右三者間に合意が成立した。

(3) 右合意に基づき、本件手形が振り出され、越智がこれに更生会社を代表して本件裏書をした。

(二)  右経緯によれば、本件裏書は、外形上、更生会社が裏書した後、株式会社ダイトーが原告に対して裏書した記載となっているものの、実質的には原告が株式売却代金の支払の保証を更生会社から受けることを目的とするものであるゆえに、原告代表者の横山が、更生会社の代表者でもある越智と直接交渉にあたり、更生会社による本件裏書について合意しているのであるから、原告は、本件裏書に関しては、直接利益を受け、かつ、対価関係の存否を直接確認することも可能な立場にあったと言える。

よって、原告は、本件裏書に関しては、当事者に準じる地位にあったと認めることができるから、会社更生法九〇条にいう転得者に該当せず、原告との関係において、本件裏書を否認するためには、同法七八条一項の要件を充足すれば足り、同法九〇条一項の要件を充足する必要はないと解することが相当である。

そして、本件裏書が会社更生法七八条一項四号に該当することは前記認定のとおりであるから、被告らによる否認の請求を認容した原決定は、結論において相当と認めることができる。

3  以上のとおり、原決定は相当であるから、その取消しを求める本件請求を棄却し、原決定を認可する。

(裁判官中山顕裕)

別紙手形目録<省略>

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